介護施設でICTが定着しない原因と対策|導入後の支援と振り返り



介護記録のシステムを導入したのに、忙しい時間は紙に書き、勤務の終わりに入力し直していませんか。便利になるはずが、かえって仕事を増やしていることがあります。

ICTを現場で使い続けるには、操作を覚えてもらうだけでは十分ではありません。使えない理由を確かめ、日々の仕事の中で無理なく使えるように整えることが大切です。

この記事では、導入後のつまずきを見つけ、操作の支援やルールの見直しにつなげる方法を、5つのステップで紹介します。


1. 使えない理由を、実際の業務の中で確かめる

利用が進まないときは、「職員が操作に慣れていないから」と決めつけないようにしましょう。操作が分かっていても、端末が空いていない、通信が途切れるといった理由で使えない場合があります。

例えば、日中は記録できているのに、夕食後だけ入力が遅れる場面です。職員に聞くと、介助が重なる時間帯に端末も共用していて、使いたいときに使えないのかもしれません。この場合、操作研修を増やすだけでは解決しません。

まずは、**「誰が使えていないか」ではなく、「どの業務の、どの場面で止まるか」**を確認します。

現場で起きていること確かめること対策の例
入力が後回しになる端末待ちや通信不良がないか端末の配置や通信環境を見直す
同じ操作の質問が多い手順のどこで迷うのかその操作に絞って練習する
紙とシステムに同じ内容を書く紙を残す理由は何か不要な転記を減らせるか確認する
システム内の連絡が読まれない確認するタイミングが決まっているか勤務中のいつ確認するか決める

管理者やリーダーは、職員に「最後に困ったのは、どんな場面でしたか」と聞いてみてください。必要に応じて実際の作業も見せてもらうと、「使いにくい」という声を、具体的な改善につなげやすくなります。


2. ICTで減らしたい負担を一つに絞る

「業務を効率化するため」という説明だけでは、職員は何を変えればよいのか分かりません。最初は、減らしたい負担を一つに絞って共有しましょう。

介護記録なら、「勤務の終わりに、記憶をたどりながらまとめて入力する負担を減らす」と伝えます。連絡機能なら、「出勤時に、複数の連絡ノートを読み直す手間を減らす」といった目的が考えられます。

大切なのは、多くの機能を使うこと自体を目標にしないことです。一度に覚えることが増えると、現場が混乱し、慣れた紙の方法に戻ってしまうこともあります。

例えば、食事量の記録から始めるなら、「介助や見守りが落ち着いたタイミングで入力し、あとから転記する作業を減らす」と決めます。入力を急ぐあまり、必要な介助がおろそかにならないようにしてください。

対象の業務を決めたら、現在の困りごとも簡単に残しておきます。「夕食後の記録が勤務終了前に集中する」など、今の状態を書いておくと、取り組み後に変化を確かめやすくなります。


3. よく使う操作を練習し、勤務中に聞けるようにする

導入時の説明会だけで、すべての操作を覚えるのは難しいものです。説明を聞いて分かったつもりでも、実際の勤務では手が止まることがあります。

例えば、食事量の入力はできても、間違えた記録の修正方法が分からない職員がいるかもしれません。その場合は、全機能を説明し直すより、修正の操作を一緒に練習するほうが役立ちます。

支援は、次のように進めましょう。

  • よく使う操作から、職員自身に操作してもらう
  • 迷いやすい箇所は、画面の図と短い説明で手順を残す
  • 早番・遅番・夜勤でも質問を残せる方法を決める
  • その場で答えられない質問は、確認後に回答を共有する

詳しい職員が代わりに入力するだけでは、本人が使えるようになりにくくなります。 業務に余裕のある場面で、隣から説明しながら本人に操作してもらいましょう。練習用の画面やデータが使える場合は、それらを活用します。

支援する職員への負担にも気を配ります。相談役を複数にし、施設内で答えられない質問は提供会社に確認するなど、一人で抱え込まない形にしてください。

練習後は、「説明を受けたか」だけでなく、実際の勤務で同じ操作ができたかを確認します。まだ止まる場合は、手順の説明だけでなく、画面の分かりにくさや操作するタイミングも見直しましょう。


4. 二重記録と曖昧なルールを見直す

操作に慣れても、以前の仕事がそのまま残っていれば負担は減りません。特に、紙とシステムに同じ内容を書く作業が残っていないかを確認しましょう。

例えば、システムに入力した食事量を、慣例で紙の一覧にも転記している場合です。まず、その紙を誰が、何のために見ているのかを確かめます。同じ情報をシステムで確認できるなら、転記をやめられる可能性があります。

ただし、紙を一律になくすのは避けてください。必要な記録が残るか、関係する職員が情報を確認できるかを、管理者や関係職種で確かめてから変更します。

職員の意見を聞くときは、漠然と「不便なことはありますか」と尋ねるより、次のように聞くと具体的になります。

  • 同じ内容を繰り返し書いているところはありますか
  • 入力する人や、確認する人が決まっていない項目はありますか
  • 紙に戻らないと仕事が進まないのは、どんな場面ですか

例えば、連絡機能を使っていても、確認する時間が決まっていなければ伝達漏れが起こりかねません。「出勤後の申し送り時に確認する」など、仕事の流れに沿ってルールを決めます。緊急の連絡は、画面への掲載だけで済ませないことも大切です。

変更点と開始日は、短くまとめて共有しましょう。夜勤者や休みの職員にも伝え、変更後には、転記が本当に減ったか、情報を確認できずに困る人がいないかを確かめます。


5. 使った回数ではなく、負担とケアへの影響を確認する

ログインや入力の回数が増えても、それだけで仕事が楽になったとは言えません。最初に減らしたかった負担がどう変わったかを確認します。

例えば、まとめ入力を減らすことが目的なら、勤務終了前に記録が集中しなくなったか、紙からの転記が残っていないかを見ます。同時に、記録の抜けや誤入力が増えていないかも確認してください。

確認する項目は、多くしすぎる必要はありません。まずは、次の3点を見直し前と後で比べましょう。

確認すること確認方法の例
負担は減ったか記録にかかる時間や、転記の有無を確認する
無理なく使えているか勤務帯ごとに、操作で止まる場面を聞く
ケアに支障がないか記録漏れ、連絡漏れ、入力による介助の中断がないかを見る

時間を比べる場合は、できるだけ似た業務や勤務条件で確認します。人員配置や利用者の状態が違う日は、時間の増減だけで効果を決めないようにしましょう。

振り返る日をあらかじめ決めておくと、変更したまま放置することを防げます。例えば、日勤では転記が減っても夜勤では入力が滞るなら、次は夜勤中の端末配置や入力のタイミングを確認します。

振り返りは、使えていない職員を責めるためではありません。使い続けられる方法に直すために行います。


FAQ


Q1. 「紙のほうが使いやすい」と言われたら、どう対応しますか?

まず、紙のどこが使いやすいのかを聞きます。「一覧で確認できる」「急な変化を書き込みやすい」など、業務上の理由があるかもしれません。

その良さをシステムでも保てるか、一緒に確かめましょう。すぐに全面変更を求めず、一つの業務で試し、使いやすさと負担を比べる方法もあります。


Q2. 新しく入職した職員には、何から教えるとよいですか?

最初の勤務で使う記録や連絡の操作から教えます。画面の使い方だけでなく、「何を、どこに残すか」「誰が確認するか」も合わせて説明してください。

指導する職員によって教え方が変わらないよう、共通の手順を用意します。基本操作を覚えた後に、修正方法や困ったときの相談先も確認しましょう。


Q3. システムの障害に備えて、紙の記録も続けるべきですか?

障害への備えと、日常の二重記録は分けて考えます。毎日すべてを紙にも書くのではなく、使えないときの連絡先、代わりの記録方法、復旧後の確認方法を決めておきましょう。

障害時に参照できる情報や復旧後の入力方法は、提供会社に確認します。代替用の用紙などは、必要なときに職員がすぐ使える場所に準備してください。


Q4. 提供会社に相談するときは、何を伝えればよいですか?

「使いにくい」だけでなく、いつ、どの操作で、何が起きたかを伝えます。画面に出た表示や、業務への影響も整理すると、状況が伝わりやすくなります。

例えば、「夕食後に食事量を保存しようとするとエラーが出て、入力をやり直している」といった伝え方です。画面の画像などを送る場合は、個人情報が含まれていないか確認してください。


まとめ

介護施設でICTが定着しないときは、職員の慣れだけを原因にせず、使えない場面を具体的に確かめることが大切です。

減らしたい負担を一つに絞り、操作の支援と仕事のルールを整えます。そのうえで、負担が減ったか、記録やケアに支障がないかを振り返りましょう。

まずは職員に「最近、システムを使おうとして困った場面」を聞いてみてください。その中から一つを選び、変えられることを話し合うのが、定着に向けた第一歩です。


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