介護施設の生産性向上は何から始める?業務の棚卸しと改善計画の作り方

夕方になると記録の入力が重なり、勤務時間内に終わらない。「早めに記録しよう」と声をかけても、状況が変わらないことはありません

大切なのは、職員に急いでもらうことではなく、仕事が滞る理由を確かめることです。最初から新しい機器を導入したり、施設全体の仕事を変えたりする必要はありません。

この記事では、業務を書き出す「棚卸し」から、取り組む順番の決め方、改善計画の作成、効果の確認までを5つのステップで紹介します。職員の負担を減らしながら、安全で丁寧なケアを続けられる方法を考えていきましょう。


1. 忙しい時間帯を一つ選び、仕事の流れを書き出す

業務の棚卸しとは、普段の仕事を「誰が、いつ、何をしているか」に分けて書き出すことです。施設全体を一度に調べると負担が大きいため、まずは一つのフロアや、忙しさが集中する時間帯に絞りましょう。

たとえば、夕方の記録が終わらないなら、「夕食前から勤務終了まで」を確認します。「記録業務」とまとめず、メモ、情報の確認、端末への入力など、実際の動きに分けると困りごとが見つかりやすくなります。

書き出す仕事確認すること困りごとの例
ケア内容をメモするいつ、何に書いているか後から思い出して書いている
端末に記録を入力する誰が、いつ入力するか端末が空くまで待っている
申し送りをする何を、どう伝えるか記録済みの内容をすべて読み上げている

担当する職種や回数、おおよその所要時間も添えます。細かく測るのが難しければ、「待ち時間がある」「勤務終了前に集中する」と書くだけでも構いません。

管理者が整理したら、その時間帯に働く職員に「実際の流れと合っていますか」と確認しましょう。日勤の仕事だけを見ると、夜勤者が後から行っている確認や修正を見落とすことがあります。

この段階では、仕事を減らす判断を急ぎません。職員を評価するためではなく、仕事の進めにくさを見つけるために調べると伝えることも大切です。


2. 時間がかかる場面を確かめ、原因を絞る

仕事を書き出したら、負担が大きい場面を詳しく見ます。「記録が大変」という声だけでは、何を変えるべきか決められません。どこで作業が止まり、何に手間がかかっているかを確かめましょう。

たとえば、同じ「入力が終わらない」という困りごとでも、考えられる原因は異なります。

  • 端末が足りず、使える順番を待っている
  • 書く内容の基準がなく、毎回迷っている
  • 同じ内容を紙とシステムの両方に残している
  • ケアの合間に入力できず、夕方に作業が集中している

端末待ちが原因なら、「早く入力してください」と伝えても待ち時間は減りません。書く内容に迷っているなら、端末を増やす前に記録のルールを整理する必要があります。

職員には「なぜ終わらないのですか」ではなく、「どの作業で止まりますか」「何を確認していますか」と聞いてみてください。言葉だけでは分かりにくい場合は、通常の作業を一緒に確認します。

また、二重に見える作業にも役割がある場合があります。紙の記録をなくすなら、誰が何のために使っているか、保存や共有に必要な条件を満たせるかを先に確認しましょう。


3. 安全に試せて、負担の軽減につながる一件を選ぶ

困りごとが複数見つかっても、一度にすべてを変える必要はありません。変更が重なると職員が混乱しやすく、どの工夫が役立ったのかも分からなくなります。

まずは、安全に関わる問題を分けて考えます。服薬確認が抜ける、利用者の状態変化が伝わらないといった問題は、時間短縮よりも事故を防ぐ対応を優先してください。

そのうえで、日常業務の改善は次の観点で比べます。

  • 負担が大きいか: 頻繁に起こり、多くの職員が困っているか
  • 小さく試せるか: 一つのフロアや一部の業務に絞れるか
  • ケアに支障がないか: 必要な確認の省略や対応の遅れにつながらないか

たとえば、記録全体を変更するのは難しくても、決めた種類の記録について、書く項目を整理することなら試せる場合があります。実際に記録する職員だけでなく、読む職員にも参加してもらうと、必要な情報を残しやすくなります。

「簡単にできること」だけで選ぶと、ほとんど負担が減らないこともあります。最初の一件は、現場が困っていて、改善すれば仕事が進めやすくなりそうなものを選びましょう。


4. 変えることと確かめ方を、一枚の計画にまとめる

取り組む課題が決まったら、関係する職員が迷わず動けるよう、計画をまとめます。長い資料よりも、「何を試すか」「誰に相談するか」「いつ振り返るか」が分かることを優先しましょう。

たとえば、記録の書き方が職員ごとに異なり、入力に時間がかかっている場合は、次のように整理できます。

計画の項目記入例
困っていること書く範囲が曖昧で、入力と確認に時間がかかる
目指す状態必要な情報を残しながら、迷わず書ける
試すこと必須項目と、詳しく書く場面を整理する
試す範囲一つのフロアの、決めた種類の記録
進める人・相談先フロア責任者が意見を集め、管理者と確認する
振り返る時期開始前に日付を決め、職員に知らせる
確認すること記録時間、記載漏れ、読み手からの確認の増減

「記録を短くする」だけを目標にすると、必要な情報まで省かれるおそれがあります。普段と違う様子、そのときの対応、対応後の状態など、詳しく残すべき場面も具体例で共有してください。

試す前には、変更点を短い手順書などにまとめ、対象の職員に説明します。別の勤務帯や他職種も記録を読むなら、その人たちにも確認が必要です。

あわせて、「必要な情報が伝わらない場合は責任者に知らせる」など、困ったときの対応も決めます。安全に支障が出る場合は、試行を止めて元の方法に戻せるようにしておきましょう。


5. 試す前後を比べ、続けるか見直すかを決める

改善策は、実施しただけでは効果があったとは言えません。始める前の状態を残し、試した後に何が変わったかを比べます。

記録の書き方を変えるなら、入力にかかる時間に加え、記載漏れや読み手からの確認が増えていないかを見ます。書き手の負担が減っても、夜勤者の確認作業が増えていれば、手順の見直しが必要です。

比較する日は、できるだけ勤務人数や業務量が似た日を選びます。利用者の体調変化などで対応が増えた日は、その事情も書き添えると、時間が増減した理由を考えやすくなります。

振り返りでは、次のように判断しましょう。

  • 負担が減り、必要な情報も伝わっている:続ける手順を決める
  • 一部は楽になったが、別の手間が増えた:方法を直して再度試す
  • 情報の抜けなど、安全上の問題がある:中止して元の手順に戻し、原因を確認する

時間が短くなったかだけでなく、安心してケアを続けられるかも確かめることが大切です。 記録する側と読む側の両方に、困ったことや使いやすくなった点を聞いてください。

効果を確認できたら、手順を短くまとめ、他の勤務帯やフロアでも少しずつ試します。生まれた時間を利用者との関わりや休憩に使えているかも、確認していきましょう。


FAQ


Q1. 忙しくて、業務を書き出す時間が取れません。どうすればよいですか?

最初から全業務を調べず、既存の打ち合わせで「今日、予定より時間がかかった仕事」を一つずつ集めてみましょう。責任者が仕事の流れに沿って整理し、職員には内容の確認をお願いします。調査のための記入作業が増えすぎないようにすることが大切です。


Q2. 予算がなくても改善できますか?

申し送りで伝える内容や、確認先を整理するなど、機器の購入を伴わない改善もあります。ただし、費用をかけない代わりに、職員の作業を増やしていないかは確認してください。端末や人員の不足が原因なら、待ち時間や業務への影響をまとめ、予算の検討につなげましょう。


Q3. 職員から「今のままでよい」と言われたらどうしますか?

まず、変更の何が心配なのかを聞きます。以前の改善で仕事が増えた、今の手順で大切な確認ができているなど、理由があるかもしれません。守るべき点を確認したうえで、期間と範囲を限り、問題があれば戻せる試し方を相談しましょう。


Q4. 試しても効果が出なかった場合は、どうすればよいですか?

すぐに「職員の協力不足」と判断せず、原因の見立てと実際の使い方を確認してください。記録のルールを整えても、端末待ちが残っていれば入力時間は減らないかもしれません。新しい方法が十分に伝わっていたかも確かめ、続けるより元に戻した方がよい場合は戻します。


まとめ

介護施設の生産性向上は、仕事を一律に減らすことではありません。仕事が滞る理由を確かめ、安全とケアの質を守りながら、進め方を整える取り組みです。

まずは忙しい時間帯を一つ選び、仕事の流れと困りごとを書き出しましょう。その中から一件を選び、「何を変えるか」「いつ、何を確かめるか」を決めて小さく試すことが、改善の第一歩です。


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